先日、ある学会に参加して三重の驚きを経験した。
先ずは「フェアトレード」に関する分科会があったこと。
私はフェアトレードに実践として取り組んでかれこれ15年近くになるが、それを研究の対象とするなぞついぞ考えたこともなかった。
それが学会の中で1分科会を構成しているという。
もちろん、ここ10年近くの間に日本でも多くの団体ができたし、沢山の人が関心を寄せるようになってきたことは承知している、というよりも体感している。
しかし、それでもフェアトレード活動そのものが持つ生産者へのインパクト、消費者への影響は必ずしも華々しいものとは感じ得ていない。
似たような草の根活動でいえばマイクロファイナンスなぞは、利用者の変化やその手法の普及が劇的であり、注目に値しようし研究の対象にするのも頷ける。
それに比すればファアトレードはより地道な活動だというのが実感だ。
近年、フェアトレードに関する研究会が各所で催されているという情報も得ていたし、啓蒙書のみならず研究書が立て続けに発行されたということも承知している。
それはしかし、たまたま関心を抱いた一人が行動すればできることである。
しかし、学会での分科会となるとある種の手続きも必要だしオーソライズも受けなければならない。そうした意味で分科会が成立していること自体に驚いた。
第2に、存外に多くの人がフェアトレードを研究しているという事を知って驚いた。
研究報告に立ったのは4人、加えて座長も関連研究者、2人の討論者もフェアトレードに関わる。
それぞれがアジア、アフリカ、南米にフィールドを持ち、生産団体や生産者の実態調査等を行っている。
専門分野でいえば農業経済、農村社会学、貿易論、人類学、とさまざまな立場から研究を行っている。
こんなに多くの研究者が関心を深めて調査をしているなぞ考えてもいなかった。
ある生産団体がフェアトレードを始めた事でどのような変化を生じたのかとか、フェアトレードが現場の生産者にどれほどの影響を与えたのか、FLOラベルを取得したことによって経営がどのように変化したのかなどなど、いろんな角度からの論点をたてて研究を進めていた。
そういえばフィリピンを代表するフィリピン大学UPやアテネオ・デ・マニラ大学ではそれぞれ研究グループがフェアトレードの調査研究を進めているとか。感心、感心。
第3に、その分科会には比較的多くの参加者(オーディエンス)がいたばかりか、結構年齢層の高そうなご仁らが多くの座を占めていたことに驚いた。
学会最終日最後のプログラムであったので、皆疲れていて、お帰りモードも高まっている時間帯である。にもかかわらず、30人ほどの参加があっただろうか。
暇つぶしではなく興味を以て集まった方々とみて間違いはない。さらにオーディエンスの半分以上は、かつての青年、要するに50代、60代の中高年層研究者で、しかも熱心にノートをとっていた。
フェアトレードが日本でも広まっているとは言っても、やはりその担い手は若い層だと勝手に思っていたのだが、もはやエスタブリッシュされた研究者先生方にさえ関心をもたれ、
開発Development Studiesのメインストリームになりつつあるのか。
あるいは、まだメインストリームになりえてはいないが、少なくとも多くの人が開発の新しいツールとして期待をしているということの表れということか。
いずれにしても、この三重驚愕は私になんだか「浦島太郎」みたいな感覚をもたらした。
若い連中と地道にフェアトレードの現場と実践に関わって、製品が届かない、販路をどうしようか、フェアトレードの方向性はどうあるべきか、などと悩みながら時には喜びながら進めてきたところ、いつのまにか周りではフェアトレードを研究・議論の俎上に載せる準備がもうすでに整っていたどころか、それを素材にして料理さえ出来つつあるのである。
正直なところ戸惑いを感じた。なんだかちょっと置いてけぼりを食った感じもする。
しかし、多くの方が関心を高めているこうした状況はもちろん、フェアトレードに関わってきたものからしたら大変喜ばしいことである。
同時に、私も天邪鬼なものだから、フェアトレードがメインストリーム化したらどんな方向に行ってしまうのだろうとつまらない心配も抱きつつ、否否、このメインストリーム化を後押ししなければならないと考えている。
むしろ、もしかしたら研究者や学問界でもよくある「関心の流行」として忘れ去られてしまわないように、これからが実践としても議論としても正念場なのだという気がしてきた。
改めて気の引き締まる思いをいだいた。Pep Up!
2012.12